声の主は褐色の肌に緋色の髪も鮮やかな美少女。
　南国のリゾートにでもいるような華麗な衣装をまとい、片膝を立てた格好で空中に座っている。
「私は日輪王・陽呼。そっちは月天王。知ってると思うが、神様だ」
　意志の強そうな金色の瞳で悠然と見下ろしてくる姿に気負いはなく、よく通る声で不遜に言い放つ男勝りの物云いも不思議と似合っていた。
　見かけはキララとそう変わらない歳の、可憐で美しい少女。けれど、その小さな身体からは想像できないほどの存在感が彼女にはあった。うっすらと微笑さえ浮かべているのに、視線を合わせることもままならない。押し寄せる迫力がブランカの比ではないのだ。
　例え宙に浮いていなくても、この神と名乗る少女を人間とは思えなかった。
　そっち、と日輪王が顎で差した方向は濃い霧で覆われていて、同じく美しいと評される月天王の姿はまだ見えない。だが、乳白色に発光する影が、そこに何者かの存在を感じさせている。
「月天王は人見知りなのだ。気にするな。まずは、名前を聞いておこう」
　顎を心持ち突き出すように、日輪王は身を乗り出した。
「…、キララ」
「ふむ。では、キララ。この茶会のルールを教えておく。努めて遵守するように」
　偉そうな物云いに圧倒されてキララがコクコク頷くと、日輪王は満足げに目を細め、スチャッと人さし指を立てる。
「茶会のルールはただひとぉつ！『飲んで話す！』これだけだ。簡単だろ？」
「…は？」
　今イチ飲み込めてなさそうなキララに、日輪王は爪の先まで美しく整えられたその指を突き付けた。
「面白い話題を提供するのが招かれた客人、すなわちお前の役目だ」
「え、それだけ…？」
「それだけとは何だ。お前、我々に聞きたいことがあるんだろう？　こんな機会は二度とないぞ」
　そうだ。これは夢なんだから、多少キテレツな展開でもいいんだ。『God's Child』の情報が手に入るかもしれないし。
　キララは必死で考える。でも、至近距離から見下ろしてくる日輪王がとにかくコワイ。
　ヘンなこと云ったら殴られるかも…。ここは慎重に行くべきか…。
「…何でもいい？」
　伺うように見上げると、日輪王はにっこり笑って頷いた。
「どんな疑問・珍問にも答えてやる。さぁ云ってみろ」
「…何個でも？」
　キララが重ねて聞くと、日輪王は笑顔のまま片方の眉を器用に上げた。…コワイ。
「…。意外と用心深い奴だな。別に幾つ質問しようとお前の自由だ。ブランカ、私のグラスを」
　云いながら軽く広げた手のひらに、丸いグラスが現れる。
　キララが注目する中、グラスは琥珀色の液体でみるみる満たされていった。姿は見えないが、近くにさっきのブランカがいるのだろうか。
「あんまりつまらんことを何回も聞くと、月天王は帰っちゃうかもしれんがな」
　つんと上を向いたキュートな鼻をグラスに寄せ、香りを楽しみながら日輪王はカラカラと笑う。そのくだけた笑顔がちょっと可愛くて、キララは小さく息をついた。
「じゃぁ、『God's Child』って何なのか教えて欲しい」
　意を決して核心を突く質問をぶつけた、つもりだったのだが。
「神の子供だ」
　日輪王の答えは簡潔でありきたりだった。とは云え、ここで「まんまじゃん！」なんて突っ込めない。
「特別な能力と使命を持ってるんでしょ？」
　キララは食い下がる。
「持ってるぞ」
「どんな？」
「死ぬまで生きるという使命と、それを遂行するための能力だ」
　日輪王の答えは漠然として要領を得ない。質問の仕方が悪いのだろうか。
「『God's Child』は、今も存在するの？」
「存在する」
「どうしたら『God's Child』だって証明できる？　一体誰が『God's Child』なの？」
　いら立ちを隠せなくて、たたみ掛けるように問うキララに、日輪王は慌てる様子もなく、ゆっくり琥珀色の液体を味わってから口を開いた。
「証明？　そんな必要はない。お前も『God's Child』なのだから。キララ」
　他でもない「神様」の口から得た、待ち望んでいた答えだ。
「マジ…？」
　それなのに手放しで喜べない気がする。
「マジマジ」
　さっぱり有り難みが湧いてこないのは、日輪王が言外に『God's Child』なんて珍しくないことを匂わせているからだろう。
「他にも、いる…んだ？」
「いる。地上の生き物は全て『God's Child』だからな」
　やっぱり。力が抜けて、キララは肩を落とした。