新世紀に突入して久しい今日、月面には巨大なステーションが建設され、月への旅行も移住も夢ではなくなった。
　科学・医療・通信…あらゆる分野においていくつもの夢が叶えられ、同時にいくつもの夢が壊されてゆく。
　それでも人は夢見ることをやめられない。
　新たな夢を求めて人々はあがき、時代は混沌の渦に巻き込まれてゆく。
　『God's Child』という言葉が若者の間で流行り始めたのは、そんな混沌の最中。
　元々は、遥か昔に繁栄した超古代文明の中で、特別な使命と能力を持っていたと云われる人間を指す言葉だった。しかし、今『God's Child』を名乗るのはその『生まれ変わり』を自称する若者たちだ。
　彼らの多くは不思議が大好きな普通の少年少女だったが、中にはディープな世界に入り込んでしまう者もいる。
『同じ記憶を持つGod's Childの仲間をさがしています』
『God's Child達へ。約束の場所で待つ』etc…
　真剣な悩みやおもしろ半分の冷やかしメールがごっちゃになってネットを飛び交い、情報を鵜呑みにした若者が非常識な行動を起こしたり、現世を悲観して自殺をはかるなど、単なる流行では片付けられない社会現象として、問題視する有識者も出始めていた。
　全国紙の朝刊にそんな記事が掲載される毎日、多くの若者が、混沌の中で道を探している。