『失われた文明とGod's Childの伝説』。それは多くの現『God's Child』たちが、なけなしの『記憶』を持ち寄って明らかにしようとしているストーリーのタイトルだった。真の『God's Child』がどんな存在だったか解明されていない現段階では、この手の情報をどれだけ持っているかが、彼らのステイタスを決定していると云っても過言ではない。
「何であんたがこんな物持ってるの？」
「色々アクセスするうちに、隠し部屋を見つけたんだ。時間がなくて手に入ったのはそれだけだったけどね」
　『God's Child』同士を介するネットに隠し部屋があるのは周知の事実。見つけてもなかなか入れないそれらの部屋の存在はキララも知っていた。エンはその一つに入れたと云うのだ。キララは瞳を輝かせて文字を追った。

『失われた文明とGod's Childの伝説』
大地を司る瑠璃王は、自らの腕の中で生まれては朽ちてゆく生命を愛していたが、中でも日々変化する人間には特別の想いを抱いていた。
ある大きな厄災が人間を襲った時、瑠璃王は人間を救うため禁を侵して人と交わり『God's Child』を誕生させた。瑠璃王はその責めを負い、二度と目覚めることのない眠りについたが、人間は『God's Child』の大いなる力によって厄災を乗り越える。
『God's Child』たちは人間の長となり、その文明はかつてない繁栄を極めた。
多くの人間が出入りする巨大な建造物、高速での長距離移動、遠隔地間の情報伝達。どれも、『God's Child』の大いなる力によって可能となった。
人々は『God's Child』を恐れ敬い、『God's Child』は瑠璃王同様に人間を愛した。
だが、『God's Child』の大いなる力とは瑠璃王、ひいては地球の生命力をその源とするものだった。
文明が発達し、人間が増えるにつれ、地球の生命力は衰えてゆく。このままの繁栄を維持してゆくのは不可能だと知っていた『God's Child』は、人間を宇宙へ逃がそうと考えた。
運命の日が近づく中、『God's Child』は人間に問う。
　「この地は間もなく命尽きる。愛する汝らに最後の選択をまかせよう。
　我々の全てを以て、新天地への永い航海に出るか
　我々の全てを以て、この地を甦らせるか
　前者を選べば、汝らはこの大地を失うであろう。
　後者を選べば、汝らはこの文明を失うであろう。
　どちらにせよ、我々はその全てを以て汝らを護ることを誓う」
　そして運命の日は訪れた。

「って、ここまで？　続きは？」
「だから、時間なかったんだってば。しかもこれだけ解析するのだって大変だったんだから」
　不満そうなキララを横目に、エンはひらりと身を翻し数十�B高い屋上の縁に飛び乗ると、ゆっくり振り返った。
「だけど、書いてあることが本当なら続きは読まなくても分かるよ。その文明は滅びて、僕らはこうしてこの星の上に生きてるんだから」
　エンは穏やかな笑顔のまま、何もない空間を背に手を広げてみせる。
「人間は、文明を捨てて地球に残る方を選んだってこと？　じゃ、『God's Child』はどうなったの？」
「『全てを以て』地球を救い、人間を護ったんじゃない？　文明を失うってことはそれを支えてた『God's Child』を失うってことでしょ」
「じゃぁ…、じゃぁ『God's Child』って…、一体…？」
　キララは下唇に握った拳を押し当てて押し黙った。情報が曖昧で考えがまとまらない。
　見下ろすエンとキララの間を、一陣の風が吹き抜ける。