美しくも荒涼とした月の宮殿に、月天王の怒声が響き渡る。
「あ…ンのぉぉ…大喰い鯨ぁぁ〜っ！」
　目覚めた月天王がまず目にしたモノは、素焼きの壺であった。それも、執務室の床を埋めつくす程の『壺の山』。いっそ美しいくらい整然と並んだシンプルな壺に対する月天王の怒りは、もちろんビジュアルに対するものではない。
「呼びました？」
　叫んだ大口のまま振り返った月天王は、そこに涼し気な顔をした黒衣の鯨の姿を見た。 あろうことか、すでに満腹であるらしい。小わきに壺を抱えているあたり、毎度のことながら念の入ったジョークと云えよう。
　『開いた口が塞がらない』どころか『開けた口の顎が外れた』状態の月天王は、すぐには声もでない。
「いかがなされました。美しいお顔が台なしですよ。月王様」
　なんて云いながら、（こんなお顔も、チョー可愛い�｡）と思っている鯨に、付ける薬なんかありゃしないのだ。
「お前やっぱり、意地悪だ〜〜〜っ！」
　 愛は、報いを求めるもんじゃないと涙ながらに思う月天王。
　こうして、月の宮殿の非日常的な日常は過ぎてゆくのであった。

終わるっ（ちゃんちゃん♪）