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　次に君を見かけたのは、風薫る初夏。雨上がりの朝でした。爽やかな風が街路
樹の新緑を撫で、濡れて輝く萌葱色の葉がとても美しかったのを憶えています。
　洗いざらしのジーンズに白いＴシャツ、君は横断歩道の向こうで、信号が変わ
るのを待ちながら、空を見上げていました。雨が上がったばかりの空にはまだ雲
が残っていて、その隙間から天使の梯子が降りていました。君は吹き渡る風に髪
を任せたまま、しばらく空を眺めていて、信号が青になったのにもすぐには気付
かなかったようでした。
　周囲の人の動き出す気配に気付いた君が、小さく深呼吸してから、一歩を踏み
出したのを知っています。口元をきゅっと引き締め、背筋をピンと伸ばして軽快
なストライドで歩く君は、まだ目覚め切らないサラリーマンや、寝不足顔の学生
達を颯爽と追いこして行きました。すれ違ったのはほんの一瞬。爽やかな香りと
小さなつむじ風を残して、君は都会の雑踏に呑まれて行きました。

　道ばたの花壇やコンクリートの隙間に咲く名も知らない草花に気付くと、
　君が歩を緩めるのを知っています。
　鳥が飛ぶのを、じっと見つめていたのも知っています。
　小さな生き物に、優しいまなざしで笑いかけていたことも。
　こんな雑然とした都会の中で、
　君が四季を感じようと耳を澄ませ目をこらし、
　自分の中の自然を失うまいとしていることを、知っています。

　ありふれた日常の中の身近な自然が持つ生命の輝きや、君が大事に思う人達の
言葉や笑顔が、今日を戦う君を支えているように、君のさり気ない仕種や微笑み
が、周囲の誰かに力を与えていることに、君は気付いているのでしょうか。
　だから、君が笑顔の時、いつも側に居て一緒に笑っていたいと思うのです。