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　人気のない屋上で君が独り、泣きたいだけ泣いていたのは、晩秋の良く晴れた
昼下がり。空はどこまでも高く、冴えた空気が清々しい日でした。
　重ね着したコットンシャツに薄手のコートを羽織っただけの君には、風が少し
冷たかったのかもしれません。君は自分を抱きしめるようにして壁にもたれ、後
から後から溢れてくる涙を拭いもせず、つま先あたりを睨んでいました。渦巻く
激しい感情に混乱した君は、君を傷つけた誰かを責め、傷ついてしまった自分の
弱さを責め、こんな世の中をも責めながら悔し涙を流し続けていました。
　何も考えられない空白の時間が過ぎて、たくさんの涙がもつれた感情を解きほ
ぐし押流してしまうと、君は少し疲れたように、ため息を一つついたのでした。
そして思い出したように空を見上げ、澄んだ青空と冷たい空気の向こうから降り
注ぐ太陽に目を細めながら、ようやく拭った君の両頬は少し赤くなっていました。

　君が流した涙の最後の一雫は、悔し涙などではなく、
　君の心の一部が傷つき壊れてしまった純粋な痛みと悲しみの涙だと思うのです。
　君を守ってくれる人やものは、
　君が思うよりたくさん存在するでしょう。けれど、
　君の心の一番やわらかいところは、
　君自身にしか守ることができないことを
　君は痛みとともに知ったのでした。

　本当に悲しい時には、どんな慰めも心に届かなくて。少し距離をおいて見守る
ことしかできません。でも、君が涙を乗り越えて、何かを話したくなった時には、
一番に駆け付けてあげたい。
　だから、君が涙の時にも、君の声が聞こえるところにいたいと思うのです。