泣きながら生まれて。笑って、食べて、また泣いて。
君が生まれたから起こる出来事が、この世界にはあふれてる。
　その夜は何故かとても静かで、雲一つない空にミルク色の月が輝いていた。とろ
けるような優しい月光に導かれて僕は、君の誕生の瞬間に立ち合うために天空を駆
け抜けた。新しい命の誕生を、一番に祝福しようって決めていたんだ。
　君は少しばかり苦しい思いをしてこの世界に生まれて来たのだけれど、思いのほ
か元気な産声で、がんばったお母さんを安心させたよね。難産の子供は誕生の記憶
を持っているというけど、君はどうだろう。
　祝福の月光のもと、君の誕生を祝うためにたくさんの人が駆けつけたことや、君
が無事に生まれたことを知って涙を流した人の事を、覚えているだろうか。君があ
んまりかわいい赤ん坊だったから、たくさんの天使がくり返し君のもとを訪れて君
に目撃されたことは？　一番に祝福した僕は次々に訪れる彼等に、君の瞳が夜空の
ように美しく澄んでいることを、よく自慢したものさ。
　ここだけの話し、生まれて間もない子供は、レントゲンにも写らない感覚器官で
天使を感知できるんだ。
　君が見つめる虚空には必ず僕がいたって断言してもいいくらい、僕は君を見てい
たんだよ。おかげで君は、よく笑う赤ん坊だと評判だった。
　そうそう、君が小さいその手にきゅっと握っていたたくさんの夢と希望は、僕が
祝福して世界に放ったんだ。君はいくつ、捕まえた？

　たとえ君が忘れていても、これだけは真実。
　君は、愛されて生まれて来たんだ。

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