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　その電話は真夜中に掛かってきた。
　寝入りばなだったリツロウは、寝ぼけて反射的に電話を取り、相手も確かめずに通話ボタンを押してしまう。
『もしもーし！　もしもーし！　聞こえてますかー？』
　飛び込んできたのは、思わず耳を塞ぎたくなるような威勢の良い声。
「……只今寝てます」
『おー、寝てたか。おはよー！　おはよー！　起きたかぁ？』
「……寝てます」
『あははは、リッちゃん起きろー！』
「……エン、だろ」
『大アタリ〜！』
「お前なぁ…、今何時だと思ってんだ」
『え〜？　そっちが夜だってことはわかってるよ』
　確信犯め……。このまま切ってやろうかとも思ったのだけれど。
「何か急用か？」
『うんまぁね。特に急ぎって訳じゃないけど』
「…切るぞ」
　怒りでいっぺんに目が覚めた。滅多に会わない幼なじみ、睡眠時間を削って義理立てするほどのもんではない。それでなくとも今日は機嫌が悪いってのに。
『タンマタンマ！　急ぎじゃないけど、でも、夜じゃないとだめなんだ』
「何だよもう。早く云えよ」
『リッちゃん、空見て』
「あぁ？　空だぁ？　何でだよ」
『いいから、今見て！　すぐ見て！』
「まったくもう…。空なんて真っ暗で……」
　ぶつくさ云いながらも、ノロノロとベッドから降りて窓際へ立つ。
「へい。見たぜ〜。街の灯りがポツポツと、四角い建物の上に黒い空がのっぺり。別に、日本の田舎町とそう変わらんぞ」
『電気消してる？　んじゃ、目を瞑って。10秒くらいかな』
　まったくわけが分からん。だけど、エンのどこか楽し気な声に、何かあるなと考えた。
「…9…10。もういいか〜」
『いいよ、暗闇に目を慣らしたら、ゆっくり目を開けて』

　初め、やはり空はのっぺりと黒かった。地表近くは街の灯りに薄くガスがかかったようで、ぼんやりと霞んでいる。
　それでも視線を天頂へと移して、深い暗闇を見つめる事、しばし。

　ひゅ……！

「…？　あ、れ…！」
　視界の端を一筋の光がかすめた。
『見えた？』
　笑いを含んだエンの声。
「え、今の…？　あ！　また！」

『ペルセウス座流星群だよ。今夜、世界中の空を、星が流れるんだ』

　そんな説明が聞こえたような気がするけれど、その時にはオレはもう、部屋のドアを飛び出していた。
「起きろ！　皆！」
　初めての海外ツアー。言葉も通じず、緊張とストレスで今日のリハーサルは散々だった。スタッフに当たったりもした。悪いと思いつつ、上手く伝えられなくて。
「起きろ！」
　近くの部屋のスタッフを起こして回る。
「空を……！」


ソラヲミロ！

　今夜　世界中の空を　星が流れるんだ
　今夜　世界のどこかで　誰かが　同じ空を　きっと見てる

おしまい
『ソラヲミロ』2007年8月21日発表作品